土木界のヒーロー空海

第3回は、土木技術者が身近な人に伝えたくなる「超有名な偉人と土木技術」の話をしたい。

今回取り上げるのは空海(くうかい)(774~835)。

空海は、約千二百年前、平安時代に真言宗を開いたお坊さんだ。
醍醐(だいご)天皇から弘法大師(こうぼうだいし)という諡号(しごう)が贈られたことから「弘法さん」、「お大師さん」とも呼ばれる。書道の達人で「弘法も筆のあやまり」ということわざを知らない人はいないのではないだろうか。どんな達人でもときには失敗することがある、というたとえで使われるが、「猿も木から落ちる」や「河童の川流れ」に比べてなんとなく格調高い気がするのは私だけだろうか。

さて、この空海は、生まれ故郷の香川県にある国内最大の農業用ため池、満濃池(まんのういけ)の災害復旧で活躍したことでも知られている。
700年頃に築造されたといわれるこの池は、818年に大洪水により決壊し、周辺の田畑に被害をもたらした。この豪雨災害の復旧に際し、立ち上がったのが、すでに仏教界のヒーローだった空海であった。
朝廷の命を受けて派遣された空海は、大きな水圧にも耐えられるよう当時の日本ではみられなかった「アーチ型堤防」の採用を決めた。そして、余剰の水を放流するため、岩山を切り開き、余水吐(よすいばき)と呼ばれる調整溝を掘ることとした。
その他堤防の決壊防止のために様々な新技術・新工法、伝統工法を採用している。
築堤時に補強盛土工法を採用したもその一つだ。
具体的には、土を薄く盛っては、木の小枝を敷き詰めて足で締め固めることを繰り返す工法である。
ジオテキスタイル工法など現在用いられてある補強土工法の地産地消版である。
補強土工法の起源は定かではないが、すでに中国では紀元前から葦(よし)や竹の小枝を束にして盛土の補強に用いている。
空海は、中国から真言密教をもたらしただけでなく、新技術・新工法の開発や、海外土木技術の国内普及にも貢献していることから、土木界のヒーローでもあったことがうかがえる。
「弘法筆を選ばず」という言葉もあるが、実際の空海は道具へのこだわりは強く「弘法筆を選ぶ」が正しいという話も聞いたことがある。

道具にこだわりをもち、道具を大切にする。技術者としてとても好感が持てる。

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