第1回 負けず嫌いがプレストレス(その3)

だいぶ回り道をして大学に入学した私でしたが、ある疑問が頭をもたげます。
あれは大学2年生の時でした。

大学で土木を専攻したのに、授業で習う内容は勉強ばかり。何ひとつモノづくりのスキルが身についていない。。。実際に構造物を作れるのか?

私は3年回り道しましたが、高校の同級生は、みんな就職しています。これ以上、遅れるわけにはいかない。更に、2年生になり、授業でも土木の専門科目を習いだしたので、せっかく勉強したその技術が本当に現場で使えるのか?試してみたくなったのです。

土木1世である親父に相談したところ、「大学の休み中ならばアルバイトさせてもらえるかもしれない、知り合いに話をしてやる。」と満更でもない様子。

当時の私は土木業界には、発注者、設計会社、施工業者と大きく分けて3つの業種があることは知っていましたが、その中でも、この業種が良いといった希望は持っていませんでした。そのため、どの業種が良いかといったオーダーもしませんでした。

設計会社か?それとも発注者?・・・。告げられた結果は、なんとプレストレストコンクリートの新設橋梁の工事現場。事前に、作業着と安全靴を持ってくるよう指示があったので、初日は、親父のお古を借りて指定された橋の現場に向かいました。

測量や土木技術を使った計算をさせてもらえるかな?と期待していたのですが、その期待は大きく裏切られることになります。何と、アルバイトは、土木技術のスキルを駆使して、橋の建設管理をする元請けの施工業者さんではなく、施工業者さんから指示された内容に対して、実際に作業を行う下請け業者さんのところでした。現場は着手したばかりのポストテンション方式の3径間連結T桁橋です。(プレストレストコンクリートの種別であるポストテンションとプレテンションについては、次回以降、詳しくお話ししたいと思います。)

図-1 橋のしくみ (左側は横から、右側は橋を切って正面から見たもの)
出典:フレッシュマンのためのPC講座/(社)プレストレストコンクリート技術協会

私は、仮足場を作るための4mの単管パイプや、当時40キロ袋に入っていたセメントなど、重量物を運ぶ係に任命され、苦しいながらも、皆さんとワイワイ楽しく橋づくりに携わることになりました。4mのパイプを肩に抱えて、横を振り向くと重みで体がぐるりと回転しそうになることや、ベテランの職人さんはセメント袋を2袋、軽々と持ち上げること、など驚きの連続でした。通常は、下請けさんの作業中心でしたが、たまには元請けである施工業者さんの測量の仕事の手伝いをさせてもらい、日に日に形になっていく現場と自分が橋を作っているという達成感でやりがいを感じ始めていました。

 ある日、またまて、ターニングポイントがやってきます。
元請けの現場所長さんと一緒に今から製作する主桁の測量をしていた時でした。

 「土木技術者の技術や能力は、この橋のような実際の建設現場で生かすべきである。」

 実は、私の親父は、地方公務員で、工事現場の発注や建設業者さんの管理が主な仕事で、実際の建設現場で、あれこれ指示を出している訳ではありません。
親父の仕事をちょっと否定されたような気分になりました。私は、親父に対して昔から反発するにも関わらず、親父の事を評価されなかったような気がしました。また、普段から、うちの親父自身も事あるごとに、本当は、現場で大きな構造物を作りたかった、と言っていたのを聞いたことがありました。
親父は、当時としては珍しく一人っ子のため、年老いた両親をほったらかす訳にもいかず、地元に残ったと言っていました。「親父が叶えられなかった事を俺が実現させたい。俺も、所長みたいに現場で橋を作る仕事をして、自分の技術力を発揮したい。」

私の、職業が決まった瞬間でした。

大学の教授からは、再三再四、大手のPC橋の施工会社を勧められましたが、「鶏口となるも牛後となるなかれ」で、大手の歯車になるよりは、身の丈に合ったスケールの会社で伸び伸びやりたい、と教授のアドバイスを断って、アルバイトの際、元請け施工業者だった(株)日本ピーエス、すなわち、私が現在所属する会社に就職し、プレストレストコンクリートを専門の職業にすることになりました。
いつまでたっても、へそ曲がり、いわゆる肥後もっこすな私なのでした。w

次回、「プレストレスってなんじゃらほい」に続く。お楽しみに。

■掲載写真
・TOP写真
熊本県 葉山大橋 橋長388m ポストテンション方式5径間連続ラーメン箱桁橋
・文末写真
熊本県 天城橋 橋長463m 鋼・PC複合中路式アーチ橋

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